■写真テーマ 夜のあちら闇のこちら
■随想 夜の木々たち
私は岐阜県の山奥の村で育ったので子供のころはそこいらの雑木林が私たちの遊び
場だった。もちろんそのころはまだ視覚障害ではなかったのでふつうに遊ぶことが
できた。
雑木林では太い木の上に隠れ家を作り忍者ごっこ・戦争ごっこ・ちょっと怪しい
遊びなどなど、どこの子供も夕暮れまで遊び呆けていた。
私はそういう仲間と遊ぶのも好きだったが、たまに一人で雑木林の中をさまよう
とか太い木の枝に座ってあれこれ妄想するのが好きだった。妄想といってもまだ子
供なので、だいたいは漫画本の中身や遊びのこと学校のことぐらいだったが、とき
には自分の人生について考えたり女の子のことについてもやもやとした思いに苦悩
したこともあった。
そうしてふと気がつくと夕暮れ時になっていて周囲はもう夕焼けが終わって薄くら
がりになっていることがあった。おなかもすいたので、あわてて木の枝からおりて
帰り道を歩きかけたとき、ふと周囲にある異変に気がついた。異変というよりは私
の意識がそちらに向いたということかもしれないが・・、薄暗がりの中で周囲の木々
が私をじっと見ているように感じたのである。背筋に冷たい感触が走り体は凍りつ
いたように緊張した。怖くてそこに目を向けることができないからよけいに意識が
高まりさらに怖くなる・・走ってみるが夢の中のように足がもたついてうまく走れ
ないし後から誰かがついてくるような圧迫感がある。空はまだ明るさを残してはい
るが雑木林の中はもう重い暗闇が息をひそめている。
それから何度か雑木林に行ったが仲間といても夕暮れになるとあの恐怖がよみが
えってくるし、もちろん一人でいるときは夕暮れを待たずに帰るようになった。
翌年から中学校に通うようになるとともにもうあの雑木林で遊ぶこともなくなり
遊びは街まででかけてうろつくとか友達の家に集まってエロ本のまわし読みをする
とかたばこを吸うとかお酒をたしなむというようにより大人への世界を歩き始めた
のだった。あの雑木林の感覚的体験は私が大人になるための心や体の大きな変化の
象徴となる出来事だったのかもしれない。
西尾憲一
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